「トラウマが世代を超えて伝達する」
ということは、
「トラウマに伴う感情も世代を超えて伝達する」
ということです。
すなわち、
「長年にわたって
あなたを悩ませ続けている
“出所不明”のネガティブな感情は、
元々、あなたの所有物ではない
かもしれない」
「もしかすると、
あなたはトラウマを経験した
先祖のネガティブな感情を、
代わりに背負って苦しんでいる
だけなのかもしれない」
ということです。
【トランスジェネレーショナル・トラウマ/ヒーリング事例】
(和代さん) 「私はいつも孤独です。友達はいますが、大半の時間を一人で過ごします。親密な人間関係はほとんどありません。人と親密になるのが怖いのです」
(棚田) 「あなた以外に、あなたの家族や先祖で孤独だった人物は誰ですか?」
(和代さん) 「(しばらく間を置いて、)私の母方のお婆ちゃんです。お母さんから聞いたのですが、お婆ちゃんはお父さんとお母さんを同時に交通事故で亡くして、施設みたいなところで育てられたそうです」
和代さんに目の前にお婆ちゃんが立っているところを心の中でイメージするように言うと、「お婆ちゃんがとても寂しそうです。私もとても悲しいです」と和代さんは教えてくれました。
さらに、そのときの気持ちは、和代さんがいつも感じている孤独感と同じものであると教えてくれました。
(棚田) 「和代さん、目の前のお婆ちゃんにこう伝えて下さい。『大好きなお婆ちゃん、私はお婆ちゃんの寂しさを、お婆ちゃんの代わりに背負って生きています』」
セリフを言葉にすると、和代さんは涙を流しました。
(棚田) 「続けて、『私が勇気を出して人と親密な関係を作るとき、天国から一緒に喜んでください』」
和代さんは、最初、少し抵抗があったようでしたが、セリフを口にすると表情が笑顔に変わりました。
和代さんは何度も頷きました。
【トランスジェネレーショナル・トラウマ/ヒーリング事例】
武美さん(50代)は、子どもの頃から孤独感を抱えています。
どういう訳か、誰と何処にいても自分の居場所がないように感じてしまいます。
武美さんは高校を卒業するとすぐに家を飛び出し、18歳で結婚をしました。
しかし、その結婚も長くは続かず、2年足らずで離婚しました。
その数年後に別の男性と再婚しましたが、一年も経たない内に再び離婚しました。
それ以来、30年間以上に亘って、武美さんは一人暮らしを続けています
武美さんは友人の紹介で私のセミナーに参加し、もしかすると自分の家族システムに原因があるのではないかと考えるようになり、自分の家族について調べてみることにしました。
その結果、ある一人の女性の存在にとても興味を惹かれました。
その女性とは、武美さんの大叔母さん(母方の祖母の妹)で、武美さんが生まれたときにはすでに亡くなっていたので、直接会ったことはありません。
その大叔母さんは知的障害を持っていましたが、当時、家族のメンバーや親戚たちは彼女の存在を恥ずかしく思い、就職や結婚の際に不利になるといけないからという理由で彼女を世間から秘密にしておくために施設に入れられたそうです。
結局、大叔母さんは若くして施設の中で亡くなりました。
それ以降、誰もその大叔母さんについて話す者はいなくなりました。
不当なやり方で家族から排除されたり、忘れ去られようとした家族メンバーの運命は、その後の世代で子孫によって繰り返されます。
ファミリーコンステレーション(注:トランスジェネレーショナル・ヒーリングセラピーの一種)を通して、障害を理由に家族から排除された大叔母さんの運命と武美さんの運命との間に“もつれ”が生じている状況が判明しました。
武美さんは大叔母さんと同じ運命を生きることで、大叔母さんの存在を家族システム内に復元しようとしていたのです。
ファミリーコンステレーションの最初の配置で、武美さん(の代理人)は他の家族メンバーに背を向けて、隅の方で離れた所に一人ぽつんと立っていました。
家族の中に居場所がなく、孤独な状態でした。
私(棚田)が大叔母さん(の代理人)をコンステレーションに加えると、武美さんの様子が大きく変化しました。
初めは一人ぼっちで寂しそうに下を向いていた武美さんでしたが、その場に大叔母さんが現れると顔を上げて目を輝かし、笑顔で大叔母さんを見ています。
私にに導かれて大叔母さんの正面に立った武美さんは、とても幸せそうに見えました。
(棚田) 「(大叔母さんに対して、)武美さんに向かってこう言ってください。『武美、私はあなたの大叔母さんです』」
(大叔母さん) 「武美、私はあなたの大叔母さんです」
(棚田) 「続けて、『覚えていてくれて、ありがとう』」
(大叔母さん) 「覚えていてくれて、ありがとう(涙を流す)」
(棚田) 「私は障害を持ってこの世に生まれました」
(大叔母さん) 「私は障害を持ってこの世に生まれました」
(棚田) 「家族を守るために施設に入れられました」
(大叔母さん) 「家族を守るために施設に入れられました」
(棚田) 「そして、施設の中で死にました」
(大叔母さん) 「そして、施設の中で死にました」
(棚田) 「これは私に与えられた運命です」
(大叔母さん) 「これは私に与えられた運命です」
武美さん(の代理人)は、涙を流しながら、ただ黙って聞いていました。
(棚田) 「(武美さんに対して、)武美さん、大叔母さんにこう言ってください。『あなたの死を尊重します』」
(武美さん) 「あなたの死を尊重します」
(棚田) 「あなたの運命を尊重します」
(武美さん) 「あなたの運命を尊重します」
武美さんは、セラピストに促されて、大叔母さんに向かって深く頭を下げました。
この“頭を下げる”という行為は、大叔母さんの死と運命とを尊重するという意味を持ちます。
(棚田) 「大叔母さん、あなたも家族の一員です」
(武美さん) 「大叔母さん、あなたも家族の一員です」
(棚田) 「私の心の中に、大叔母さんの居場所はあります」
(武美さん) 「私の心の中に、大叔母さんの居場所はあります」
このセラピー以降、武美さんは何十年間にも及ぶ原因不明の孤独感から解放されました。
あなたをずっと悩ませ続けている感情とは、
どのようなものですか?
本当に、
本当に、
それはあなたの感情ですか?
たとえどんなにその人のことを
深く愛していたとしても、
自分のものではない他人の感情を
あなたが代わりに背負って生きることは
誰も幸せにしません。
心理セラピスト 棚田克彦